研究活動・成果

革新材料

No.16セルロースベース熱可塑性樹脂およびCFRPの開発

概要

木材などの植物バイオマスの主成分であるセルロースは地上で最も豊富に存在する炭素源であり、石油に依存しない将来の持続型社会における樹脂原料として最も有力な候補です。イオン液体という次世代型の有機溶媒に触媒機能を付与し、セルロースが溶解した状態で化学反応を行うことで、自由に分子設計したセルロース樹脂を、従来より早く、省エネルギーで製造可能になります。ナイロンベースのCFRPを代替可能なセルロース樹脂の至適分子構造を見出し、連続的に生産可能な技術を開発しました。

植物体から抽出されるセルロースは、3種類の水酸基を持つβ-D-グルコースが繰り返し紐状に連なった高分子であり、エステル化などの化学修飾を施すことで樹脂へと変換できます。どのような置換基でどれだけの量の水酸基を化学修飾するか(置換基の種類と置換度)、高分子の化学構造を自由に設計して、幅広く材料物性を制御可能なことが大きな特徴です。

セルロース分子の水酸基は、分子間で互いに強く結びついており(水素結合)、非常に強固な固体構造をしています。そのため、一般的な有機溶媒には溶けず、従来の化学修飾法ではセルロース固体表面でゆっくりとしか反応が進行しません。原料セルロースが全て化学変換された時点では、セルロース分子中の水酸基はほぼ全て化学修飾されています。


図1:セルロース(バイオマス)+イオン液体の溶解に始まるプロセスイメージ図

陽イオンと陰イオンの対からなる常温常圧で液状の塩をイオン液体と呼びます。両イオンの化学構造やその組み合わせを変えることで物性を幅広くデザインでき、セルロースを穏和な条件で溶解するイオン液体も開発されているます(図1)。これにより、セルロース分子中の全ての水酸基に対して、反応試薬が等しく接近して反応することが可能になります。その結果、化学反応の初期段階においても未反応のセルロース分子は原理上存在せず、従来は不可能であった任意のエステル置換基を任意の置換度でセルロースにワンステップで導入可能になりました。この特徴により、CFRPに最適な設計を施した新しいセルロース樹脂の製造が可能になりました(図2)。


図2:デザインセルロース樹脂+CFのイメージ図

二軸混練機は2本の金属製スクリューを互いに噛み合で並行して配置し、これらを回転させることにより、溶融した樹脂などの高粘度物を効率よく混合しながら、軸元から軸先に向かって連続的に搬送することが可能な装置です。

セルロースの化学修飾を混練機内部で連続的に行うことにより、連続的なセルロース樹脂の製造が可能となり、工業生産への道が拓かれます。上流部でセルロースをイオン液体に溶解させ、中流部で修飾試薬を加えて反応させます。混練機内部ではセルロースおよび修飾試薬の濃度を極限まで高めることが可能になり、修飾試薬のロスを抑制し、極めて効率よく短時間で化学修飾を終えることが可能です。下流部では、セルロース樹脂溶液を回収し、樹脂を溶かさない溶媒に加えることで沈殿としてセルロース樹脂を得ます(図3)。


図3:二軸混練機による樹脂生産のイメージ図

このような革新的セルロース樹脂の製造プロセスの社会実装により、多様な種類のセルロース樹脂を製造し、社会に送り出すことが可能になります。