研究活動・成果

革新材料

No.15現場重合型熱可塑エポキシ樹脂、建築用FRPパネル材の低温硬化・高Tgマトリックス樹脂、超高耐熱樹脂

概要

特殊な触媒を使用し、現場重合が可能な熱可塑エポキシ樹脂を開発しました。これをマトリックスとするFRPは、高い耐衝撃性、高接着性を有し、極厚成形や連続成形も可能な上、極薄リブも二次賦形で形成可能です。一方、建築向け耐火構造用FRPパネル材の設計指針を提案するとともに、そこで使用されるマトリックス樹脂として、80°C硬化でありながらTg≧250°Cを達成するアクリル系樹脂、並びに500°C耐熱を有するケイ素酸化物系骨格樹脂を開発しました。

熱可塑エポキシ樹脂とは、特殊な触媒を使用することにより、2官能エポキシ樹脂と2官能フェノール性化合物とのモル比1:1の混合物を直鎖状にのみ重合させる樹脂システムです。この樹脂は、初期状態においては低分子量のモノマー混合物であるため容易に強化用繊維束に含浸でき、その後速やかに直鎖状高分子へと変換されることから、FRPの成形現場で重合される現場重合型熱可塑性樹脂と呼ばれています。これをマトリックスとするFRPは、繊維/樹脂界面での高接着性に由来する高強度、並びに直鎖状アモルファスポリマー由来の高い耐衝撃性を発現することが特長です。更に、任意の段階で重合の停止・再開が可能であるため、多種多様な成形プロセス、例えばRTM、引抜き成形、圧縮成形、射出成形、ランダムシートからのスタンピングなどにも適用でき、この幅広い適応冗長性は本COI拠点が目指すFRPの適用拡大に大きく貢献し得るものです。実際に、厚さ50mm、300mm四方のブロック状支圧板も熱暴走させることなく成形できている他、炭素繊維ストランドロッドが耐震補強用緊張材、駅の転落防止柵などに、チョップドストランドからのランダムシートが、競技用スパイクレスシューズの靴底や、アシストスーツの成形に、それぞれ採用されています。
一方、移動体のみならず建築の分野でも、軽量化はコスト低減、工期短縮、CO2排出量低減の観点から重要です。高層建築向け床版としてFRP製パネル材の適用を検討する際、厳しい2時間耐火試験をクリアさせる必要があります。現実的な解としては、発泡コア材をFRPでサンドイッチしたパネル材の両面に耐火被覆材を貼り付けた構造が想定されます。火災時には、表面の耐火被覆材が炎を受けるため、FRPが直接炎に接することはないものの、熱伝導によりいずれ高温に達し、その際も荷重を支え続けられなければなりません。そのため、FRPのマトリックス樹脂はその温度を十分超えるガラス転移温度(Tg)を有する必要があり、火災時FRP温度が200°Cに達すると想定した場合、マトリックス樹脂のTgは250°C以上でなければなりません。そこで特定の構造のアクリル樹脂を開発したところ、80°C硬化でありながらTg≧250°Cを達成することができました。この樹脂は低粘度で且つ低温硬化が可能であるため、VaRTMのような既存のFRP成形方法でもパネル材の低コスト成形が可能になります。
更なる軽量化のために耐火被覆材を薄肉化した場合、FRP温度が500°C付近まで上昇することを想定し、主骨格および架橋点がともにケイ素酸化物で構成される超高耐熱セミオーガニック樹脂の開発も行いました。